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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)1012号 判決 2000年9月12日

原告

小西潔

ほか一名

被告

鈴木国治

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告小西潔に対し、四一〇九万六七四二円及びこれに対する平成一〇年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して、原告小西貞子に対し、三九九八万三五九四円及びこれに対する平成一〇年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、連帯して、原告小西潔に対し、五五七〇万七七九九円及びこれに対する平成一〇年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して、原告小西貞子に対し、五一七三万七五八七円及びこれに対する平成一〇年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、平成一〇年九月四日、被告鈴木国治が普通貨物自動車を運転中、過失によって、原告らの次男である小西滋運転の普通自動二輪車の進路を妨害し、同車を転倒させ、滋を死亡させたとして、原告らが、被告鈴木に対して民法七〇九条に基づき、同被告運転車両の保有者である被告有限会社スズキ技建工業に対して自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実(争いのない事実には証拠を掲記しない。)

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

<1> 発生日時・天候 平成一〇年九月四日午前六時三〇分ころ、曇り

<2> 発生場所 大阪府枚方市樋之上町一番二号先路上(府道京都守口線。以下「本件道路」という。)

<3> 事故車一 普通貨物自動車(大阪四一ね五六九九、以下「被告車」という。)

運転者 被告鈴木(昭和四六年一二月二五日出生、事故当時二六歳)

保有者 被告会社

<4> 事故車二 普通自動二輪車(一大阪ふ四四八六、以下「滋車」という。)

運転者 滋(昭和四八年八月一〇日出生、事故当時二七歳)

<5> 事故態様 信号機による交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)を右折中の被告車右前部に対向車線を直進してきた滋車が衝突したもの。

2  滋は、本件事故により全身打撲、心肺挫傷の傷害を負い、事故当日の午前七時二三分に死亡した(甲四)。

3  滋は奈良産業大学経済学部を卒業後、平成六年四月一日に枚方寝屋川消防組合に採用され、本件事故に遭遇するまで消防士として稼働していた。

4  原告らは、滋の両親であり、法定相続分に従い、各二分の一の割合で滋を相続した。

二  争点

1  事故態様(滋及び被告鈴木の過失割合)

(一) 原告らの主張

被告鈴木は、本件道路を北進し、本件交差点を右折しようとしたものであるが、本件交差点付近は、見通しが良く、被告鈴木は右折を開始する前に対向車線を滋車が南進してくるのを発見できたはずであるから、直進車優先の原則に従い、滋車が通過するまで右折の開始を待つべきであったのに、滋車が本件交差点に到達する前に右折できると軽信して右折を開始した過失がある。

さらに、被告鈴木は、右折を開始した以上は、滋車の進路を妨害しないように、速やかに右折を完了するべきであったのに、不用意に対向車線上に停止し、滋車の進路を妨害し、滋に急制動の措置をとることを余儀なくさせ、同車を転倒させた過失がある。

(二) 被告らの主張

被告鈴木は、時速約一五キロメートルで右折開始後、滋車が時速約一二〇キロメートルで走行してくるのを前方約一二〇メートルの地点に発見した。そこで、被告鈴木はそのまま右折を続けると衝突の危険が大きいと判断し、自車をその場に停車させ、滋車が回避してくれるのを待ったが、期待に反して、滋車が衝突してきたのである。したがって、被告鈴木には過失はない。仮に被告鈴木に過失があるとしても、滋の制限速度超過が、本件事故発生の大きな原因であるから、滋には少なくとも三〇パーセントの過失がある。

2  損害

(一) 原告らの主張

(1) 滋の逸失利益 七六一四万〇六九〇円

(原告らが各二分の一ずつ相続)

(2) 慰謝料 原告各自につき一〇〇〇万〇〇〇〇円

(3) 治療費(原告潔が支出) 六万六四三五円

(4) 葬儀費用(同上) 三五四万二八四九円

(5) 弁護士費用 原告潔分 五〇六万四三四五円

原告貞子分 四七〇万三四一七円

(6) 合計 原告潔分 五六七四万三九七四円

原告貞子分四八〇七万〇三四五円

ただし、本訴は一部請求である。

なお、滋が勤務していた枚方寝屋川消防組合では、枚方寝屋川消防組合給与条例、同施行規則、枚方寝屋川消防組合消防職員の退職手当に関する条例、同条例施行規則に基づき職員に対して、給料、諸手当、退職金が支給されている。滋は、大卒で、昇進の意欲もあったので、順調に昇給し、定年まで勤務したであろうことは相当確実である。

したがって、滋の逸失利益の算出においては、滋の将来の昇給及び退職金の支給を前提とするべきである。

(二) 被告らの主張

滋が本件事故がなければ、順調に昇給したかは不明であるし、地方財政の逼迫した状況に鑑みれば、給与条例等が職員に不利な方向で改定される可能性もないとはいえない。

したがって、滋の逸失利益の算定の基礎収入は死亡時の収入を用いるべきである。

第三争点に対する判断

一  争点一(事故態様)について

1  甲五、八ないし二三、三六、乙二ないし四によれば、本件事故の態様は以下のように認められる。

平成一〇年九月四日午前六時三〇分ころ、被告鈴木は、被告車を運転して、本件道路を北進し、本件交差点の手前約二五メートルの地点で、時速約一五キロメートルに減速し、右折の台図をし、さらに約一〇メートル進行した地点で右折を開始した。

ところが、右折開始直後中央分離帯をやや超えた付近で、被告鈴木は制動措置をとり、対向車線上の歩道の縁石(高さ約一〇から二〇センチメートル)との間隔が約九五センチメートルの位置に斜めに停止した(その理由については後述)。

時速約八〇キロメートル(この速度は、現場に残されたタイヤ痕及び擦過痕の長さに基づく大阪府警科学捜査研究所の鑑定結果(甲一九)により認められる。)で南進していた滋は、自車線前方に被告車が停止しているのを発見し、急制動の措置をとりつつ、被告車との衝突を回避するべく左に転把したが、問に合わず、滋車は、被告車右前部に衝突し、転倒した。

なお、本件道路の本件事故現場付近の速度規制は最高時速五〇キロメートルである。また、本件交差点は、南北に延びる幅員約九・二メートル(歩道部分を除く。)の本件道路と、南東方向に延びる幅員約三・一メートルの道路(被告鈴木はこの道路に進入しようとした。)及び東方向に延びる幅員約五・二メートルの道路が交わる変形交差点であり、南北方向の見通しは良好である。

2  上記認定の事故態様に基づき、被告鈴木及び滋の過失割合を検討する。

(一) 被告鈴木の過失

(1) まず、本件道路の見通しが良好であり、天候(曇り)及び時刻(九月の午前六時三〇分ころ)からも視界を妨げるような状況ではなかったこと、被告鈴木が右折を開始した地点が、交差点までなお約一〇メートルはあり、被告鈴木がそのまま右折進行したとすれば歩道に一旦乗り上げざるを得ないような位置であったことからすると、被告鈴木が、対向車線前方に滋車を発見しながら、急いで右折をすれば滋車が本件交差点に到達する前に右折を完了できると考えて、交差点のかなり手前で右折を開始した疑いも否定できない。そして、右折を開始したところが、そのまま進行すれば歩道に乗り上げざるを得ず、かつ、滋車が接近しているため、進退窮まって対向車線上で停止してしまったという可能性も考えられる。

仮に、被告鈴木の運転態様がこのようなものであった場合、被告鈴木には、右折の際の直進車優先の原則(道路交通法三七条)の違反及び交差点より手前すぎる位置で右折を開始したため安全に(歩道に乗り上げることなく)右折することが不可能となり、対向車の進行を妨害した過失が認められる。

(2) さらに、被告らの主張のとおり、被告鈴木が右折開始前には滋車に気が付いておらず、右折開始直後に前方約一二〇メートル先の対向車線上に滋車を発見したとすると、被告鈴木が右折を開始したという地点と滋車を発見したという地点が約四・六メートルしか離れていないのであるから、右折開始前に被告鈴木が前方を十分確認していれば滋車を発見できた可能性が考えられる。そうであれば、被告鈴木には右折開始前の対向車線の確認が不十分であった過失が認められる。

そして、被告鈴木は右折開始後前方約一二〇メートルの地点に滋車を発見し、停止したと主張するが、滋車が時速八〇キロメートルで走行していたとすれば、滋車が被告車のいた地点まで到達するのに約五・四秒を要する。他方、被告車が時速約一五キロメートルで右折進行していたのであれば、一秒に約四・二メートル進行することができ、本件道路の片側車線が約三・二メートルであることからすると、被告鈴木が滋車を発見した後、制動・停止せずにそのまま進行していれば、歩道に乗り上げたとしても、十分右折を完了できたはずである(少なくとも滋車の進路の確保はできたはずである。)。仮に滋車が被告らの主張するとおり、時速一二〇キロメートルで走行していたとしても一二〇メートルを走行するには約三・六秒を要するから、結論に大きな影響はない。しかも、実際には、滋も被告車が停止しているのを発見して制動措置をとっているので、衝突までには滋車はさらに減速しており、被告車のいる地点まで到達する所要時間も長かったと考えられる。

以上のとおり、被告鈴木は、滋車を発見した以上、速やかに右折を完了し、滋の進路を確保する措置を講じるべきであるのにも関わらず、対向車線上をほほ完全に塞ぐような形で停止し、滋車の進路を妨害した過失がある。

したがって、いずれにせよ被告鈴木には自動車運転上の過失が認められ、同被告は民法七〇九条により、被告会社は自賠法三条により、それぞれ損害賠償責任を負う。

なお、被告らは、被告鈴木は衝突の危険を避けるために、対向車線上に停止し、滋車が回避してくれることを期待したと主張する。しかし、対向車線上に停止した被告車と歩道縁石の間には九五センチメートルの間隔しかなく、ここを高速度の自動二輪車が通過できると期待することが合理的であるとは到底考えられないし、逆に滋車に反対車線にはみ出して被告車を避けるよう求めることも、被告車の後方から進行してくる車両との衝突の危険を冒させることになり(本件事故直後に行われた実況見分によれば、本件道路の北行車両数は三分間に二八台である。しかも、滋からは反対車線の状況は被告車の陰になって十分確認できなかった可能性もある。)、適切とはいえない。

結局、被告鈴木が滋車が自車を回避することを期待したとしても、それは不適切な期待であり、そのような期待を是認することはできない。

(二) 滋の過失

前記のとおり、滋は、本件事故の現場の直前に時速約八〇キロメートルの速度で進行していたと認められるが、本件道路の制限速度は時速五〇キロメートルであるから、時速約三〇キロメートルの速度超過であったことになる。

滋車が走行中に急制動措置をとった場合の停止までの距離を、空走時間〇・九秒(標準的な運転者の空走時間)、摩擦係数〇・六(乾燥したアスファルトの標準的な摩擦係数)と仮定して算出すると、時速五〇キロメートルで走行中であれば、約二九メートルであるのに対し、時速八〇キロメートルで走行中であれば約六二メートルとなる。

被告車が停止した時点で、滋車との距離は約四七・七メートルであったから、滋が法定速度を遵守していれば、被告車との衝突を避けられたか、事故の程度を軽減できた可能性が高い。

また、滋が高速運転していたことが、被告鈴木を狼狽させ、判断の誤りを招いた面もないとはいえない。

したがって、滋の速度超過も本件事故の発生につき寄与したものと認められる。

3  以上検討した事実によれば、本件事故における過失割合は、滋二〇パーセント、被告鈴木八〇パーセントと認めるのが相当である。

二  争点二(損害)について

1  滋の損害(逸失利益)

(一) 原告らは、滋が、大卒で、昇進の意欲もあったので、順調に昇給し、定年まで勤務したであろうことは相当確実であると主張する。

しかし、四級以上に昇級するためには、昇任試験に合格する必要があるところ(弁論の全趣旨)、滋が昇任試験に合格する蓋然性があったと認めるに足りる的確な証拠はなく、また滋が死亡時二七歳と若年であり、枚方寝屋川消防組合における勤務年数も約四年半弱と短く、消防士として定年まで勤務したかどうかも必ずしも断定はできない。また、昨今の厳しい地方財政を考慮すると、枚方寝屋川消防組合において、将来も従来の給与水準が維持されるかは不確実といわざるを得ない。

とはいえ、被告の主張するように、滋の死亡時の収入を逸失利益算定の基礎とすると、若年である滋の逸失利益をあまりに低く見積もりすぎることになる。

結局、滋の逸失利益を算定する基礎年収としては、本件事故発生時である平成一〇年の大卒男子の産業計・企業規模計・年齢計の平均賃金である六八九万二三〇〇円を用いるのが相当である。

(二) 滋は死亡時に二七歳であったので、就労可能年数は六七歳までの四〇年間と認めるのが相当であり、これに対応する年利五パーセントのライプニッツ係数は一七・一五九〇である。

さらに、原告らの長男が、独立して社会生活を送ることが困難な精神的障害を持っているため、次男である滋が将来一家の支柱的な役割を担う可能性が高かったこと(甲三四、三五、三七)を考慮すると、生活費控除率は四〇パーセントとするのが相当である。

したがって、中間利息及び生活費控除後の滋の逸失利益は、以下の計算式のとおり、七〇九五万八九八五円と計算される。

689,2300×17.1590×(1-0.4)=70,958,985(一円未満切り捨て。以下端数の生じる計算につき同様。)

(三) 上記のとおり算出した逸失利益の額から、前記認定の滋の過失割合に相当する額を控除すると、被告らが賠償すべき滋の損害額は以下の計算式のとおり、五六七六万七一八八円となる。

70,958,985×(1-0.2)=56,767,188

三  原告らによる相続

滋の相続人は、同人の両親である原告ら二名であるから、法定相続分は各自二分の一である。

したがって、滋の被告らに対する損害賠償請求権についての原告らの具体的な相続額は、以下の計算式のとおり、それぞれ二八三八万三五九四円となる。

56,767,188÷2=28,383,594

四  原告ら固有の損害(慰謝料)

滋が、原告ら及び兄の介護・扶養を将来的に担うことを原告らが強く期待していたにも関わらず、滋に二七歳という若さで先立たれたことを考慮すると、滋が本件事故で死亡したことによって原告らが被った精神的苦痛を慰謝するに相当な額は、原告らそれぞれについて各一〇〇〇万円と認められる。

この額から滋の過失割合に相当する額を控除すると、各八〇〇万円となる。

五  原告潔の損害

1  治療費

原告潔は、滋の治療費(死後処置費を含む。)として六万六四三五円を支出したと認められ(甲六)、これから滋の過失割合に相当する額を控除した五万三一四八円を原告潔の損害と認めるのが相当である。

66,435×(1-0.2)=54,148

2  葬儀費用

原告潔が滋の葬儀費用として支出した額のうち、本件事故と相当因果関係のある額としては一二〇万円が相当と認められる。これから、滋の過失割合に相当する額を控除した九六万円を原告潔の損害と認めるのが相当である。

1,200,000×(1-0.2)=960,000

六  弁護士費用

原告らが本件訴訟追行のために原告ら訴訟代理人を委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、上記認定の損害額等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用額は、原告潔について、三七〇万円、原告貞子について三六〇万円と認められる。

七  損害額のまとめ

1  原告潔の損害額は以下のとおり、合計四一〇九万六七四二円である。

28,383,594+8,000,000+53,148+960,000+3,700,000=41,096,742

2  原告貞子の損害額は以下のとおり、合計三九九八万三五九四円である。

28,383,594+8,000,000+3,600,000=39,983,594

八  結論

以上のとおり、原告らの請求は前項の各金額及びこれらに対する本件事故日からの遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるから、その限度で請求を認め、その余の請求を棄却することとする。

(裁判官 平野哲郎)

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